お知らせ・コラム
解答用紙が218.4cmあった話
数学を教えていると、毎回のように途中式を書け、ちゃんと書け、とにかく書け、という話になります。そんなとき私がよく話すネタを紹介したいと思います。
私の大学入試での話です。私は東大の後期日程という試験を受けたのですが、こいつは今考えても頭がおかしいとても独特かつ個性的な制度の入試でした。
私は数学を選択科目にしました。これで配点の7割が数学になります。その数学の試験時間は150分で、問題数は3題です。1題あたり50分ですね。いろいろ極端です。
すでに十分異常ですが、本題はここからです。このたった3題のために用意された解答用紙がなんとB4用紙で6枚もあったのです。受験番号と名前を書く欄しかない、ただの白い紙が6枚です。縦につないだら長さ218.4cm。大学ノートなら12ページ、ピザのLサイズに換算すると約7枚です。げっぷが出そうです。
これが何を意味するかは明らかでしょう。例えば問題の答えが42だったとしたらB4用紙2枚にでっかく「4」と「2」を書けと? そんなわけないですね。要するにこの解答用紙は、答えだけ書いても1点もやらんぞという東大からのメッセージなのです。
で、私がこの試験で何問解けたかというと、なんと、0です! ゼロ、ZERO、零です。「答え」にたどりついた問題は一問もありませんでした。さすがに自分でもあきれました。当時の私は数学にはそれなりに自信があり、直前の模試では偏差値83をたたき出して意気揚々と試験会場に乗りこんだのですが、このザマです。帰りの電車でついたため息のデカさをよくおぼえています。
しかし、私は合格しました。なぜか? それは途中式を山ほど書いたからです。
試験時間150分のあいだ、私の手が止まることはありませんでした。たとえ最後の答えにたどりつけなくても書けることは山ほどあるのです。図を書いて条件を整理したり、手ごろな具体例を作ってみたり、問題の一部分だけ証明してみたり……。
そして、採点した先生は私の途中式をちゃんと読んで、評価してくれたのでした。
とはいえ、正解0問で合格というのは、やはりちょっと異常です。実際、私が受けた年の問題はかなり難しかったようで、これを反省した東大の先生方は翌年からは基本的な問題を中心に出題することに――、なると思ったら大間違いでした。
私が受験した4年後の1998年に東大後期入試で出題された問題は、25年後の現在でも大学受験史上最高難度といわれる超難問でした。東大入試の問題は当日中に予備校の解答速報が出るのが普通ですが、この問題は河合塾や駿台など名だたる予備校の講師陣が誰一人として解くことができず、結局、大学教授や数学オリンピックの金メダリストに依頼してなんとか解いてもらったそうです。
そんな問題を人生がかかった試験で高校生に出題するというのは、どう考えても出題者の頭がおかしい受験生への強い信頼を感じる心あたたまるエピソードと言えますが、まあ入試問題としてダメか悪いかはともかくとして、出題のねらいはとてもはっきりした問題だったと私は思います。
要するに、東大の先生は、答えなんか別に出なくてええやんと言っているのです。
解けなくていい、途中式を書けと。全部ちゃんと読んであげるよと。
ということで、みなさん、途中式を書きましょう。人生の「答え」なんかみんな同じです。人は死んでおしまいなのです。その「途中」で何をしたか、それが大事なんじゃないでしょうか。
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