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未来が過去を変える話

2026/02/13
学習塾コラム
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萌学舎 塾長 角 一路

入試もいよいよ最終盤です。もう無事に受験を終えた生徒もいます。というわけで、前回に続き、私の大学受験時代の話を(まくら)に、今回は受験「後」の話をしようと思います。

受験が終わって最初の行動

私の大学受験の最終日は東大入試でした。試験直後の手ごたえは「よし、死んだな」という感じでして、すべり止めの都立大に行く覚悟を決めて家路(いえじ)につきました。

帰る途中、私はお気に入りの書店(今は亡きリブロ池袋本店です)に立ち寄り、本を買いました。買ったのは、数学の教科書です。

この話の常識的な解釈は「東大に受かるぐらい数学が好きな人はそうなんですねー」でしょう。すなわち「本を買った」のは結果です。

しかし、私の解釈は逆です。私は「自分があのとき数学の本を買ったことで、入試結果が合格に変わった」のだと思っています。「本を買った」のは原因なのです。

いやいや、もう答案用紙は出しちゃったんだし、結果が変わるわけないよね? 当然だれしもそう思うでしょう。

「未来が過去を変える」実験

 「遅延(ちえん)選択(せんたく)実験」という非常に面白い実験を紹介します。

まず量子力学には「二重スリット実験」という有名な実験があります。壁に開けた2つのスリットに光を通しスクリーンに模様を作る実験です。光が波動(はどう)であれば光は2つのスリットを同時に通って干渉(かんしょう)し、(しま)模様ができます。光が粒子(りゅうし)であれば1つのスリットしか通れないので縞模様はできません。そして光が波動になるか粒子になるかは「光が途中で観測されたかどうか」によって決まる、というのが「二重スリット実験」です。

「遅延選択実験」は光がスリットを通った「後」に観測するかどうかを決める実験です。その結果は驚くべきもので、光はすでにスリットを通過しているにもかかわらず、実験者が「観測しない」と決めた場合にのみ波動の性質を示し、縞模様を作ります!

「未来が過去を変える」というのは、そこまで荒唐無稽(こうとうむけい)な話でもないんですね。

残心

弓道(きゅうどう)には「(ざん)(しん)」という概念(がいねん)があります。矢を放つための八つの基本的な動き「足踏(あしぶ)み、胴造(どうづく)り、弓構(ゆがま)え、打起(うちおこ)し、引分(ひきわ)け、(かい)(はな)れ、(ざん)(しん)」の最後の動作です。矢が離れたあとも集中を持続させ、意識を途切れさせないのが「残心」です。

しかし、すでに矢は放たれています。結果は出ている。ならば「残心」にはなんの意味もないはずです。なぜそんなものが基本原則の一つになっているのでしょうか。

人間の身体は「どこで動きを止めるつもりか」によって「今どこまで動くか」を無意識に調整します。ですから 「矢が離れた後もしばらくその姿勢と気力を維持する」という前提があって、初めて身体は「離れ」の瞬間に向けて最大のパフォーマンスを発揮できるのかもしれません。

弓の達人たちは「結果が出たあとの動作も結果に影響する」ことを知っていたのです。

「それならもう一度!」

哲学者ニーチェが行った思考実験に「永劫(えいごう)回帰(かいき)」があります。今まで自分が生きてきた人生をもう一度、何一つ変えずに無限にくり返すとする。これを受け入れるか、という思考実験です。

ニーチェの答えはこうです。もし人生のある瞬間に最高の充実を感じ、心の底から「この瞬間のためなら、過去のすべての苦しみも必要だった」と思えたなら、永劫回帰を受け入れられる。

ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』には、こんな言葉が出てきます。

「これが生きることであったか。よし、それならもう一度!」

こう叫んだ瞬間に、苦しかった過去のすべてが肯定(こうてい)され、意味のある体験へと変貌(へんぼう)します。私の「受験直後に数学の本を買う」という行動は数学の勉強に対する「それならもう一度!」だったように思います。

入試が終わり、勉強が始まる

ということで、中3生のみなさん、受験もあと少しです。終わったら、しばらくは休みましょうか。でも勉強はこの先も続きます。高校受験は長い人生のほんの始まりです。そういう気持ちで最後まで勉強してください。

 「正しい道を選ぶのではなく、選んだ道を正解にする」という言葉があります。みなさんが歩いている道はいつか、必ず正解になります。ラストスパート、がんばりましょう。

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萌学舎 塾長 角 一路

東京大学理学部卒。若い頃は数学者になりたくて大学も数学科に進学。そのまま大学院にも進みましたが、在学中にアルバイトでやっていた塾教師の面白さに目覚めてしまい、萌学舎に就職しました。今では私の人生の半分は「萌学舎の先生」です。担当科目は数学・英語・理科・国語。高校・大学で演劇をやっていた経験をいかした迫力ある授業と、数学科じこみのロジカルな解説がもち味です。

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